見取図
1
[4/14(Mon) PM4:22]
二階堂 遼登(にかいどう はると)は大きく息を吸い込んだ。
「ヒュウウウゥ」
この音は、今遼登が持っている木管楽器から発せられたものではない。遼登の口から発せられたものだ。
「羽奏ちゃん、上手だね!」
この音も、今遼登が持っている木管楽器から発せられたものではない。吹奏楽部の二年生、フルートパートの西本 風音(にしもと かのん)の口から発せられたものだ。柊 羽奏(ひいらぎ わかな)が勝ち誇ったように遼登に顔を向けるが、遼登は気づいていないようだ。
「遼登君も頑張って!」
一つ上の先輩の声にようやく我に返ったのか、手に持っていた木管楽器を口元から離した。
「フルート難しいな。そもそも音が出ない」
遼登が苦笑いを浮かべるのを見て、風音が優しく微笑んだ。
「そっか。でも気持ちはよくわかるよ。最初は私だって音出なかったもん」
その言葉に遼登は安堵の表情を浮かべる。不意に水城 京香(みずき きょうか)が口を開く。
「風音さっき、合奏室から時代劇みたいな音が聞こえたのは気のせい?」
2
[4/14(Mon) PM4:23]
「これは何ですか?」
執行 航(しぎょう わたる)が、不思議な形状の打楽器を手に尋ねる。
「ちょっと貸してみて!」
秋永 美結(あきなが みゆ)が、いきなりそれの球体部分を膝に叩きつける。
「おお!ちょっと貸してください!」
航が同じように叩きつける。が、サッカー経験者の航はハンドキックの要領でそれを蹴り飛ばした。その不思議な形状の打楽器は美しい放物線を描き、ティンパニをかすめて床に落ちた。わざとやった訳では無かったようで、航は顔を真っ赤にして謝った。
と、同時に合奏室の扉が開き、村上 大地(むらかみ だいち)が入ってきた。
「美結、なんでヴィブラスラップ練習してるの?」
「あっ、ご、ごめんわた......あっいや、何でもないの!」
大地は一瞬怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻って言った。
「航もヴィブラスラップやってみる?」
- To be continued -

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